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津家庭裁判所松阪支部 昭和31年(家)76号 審判

申立人 事件本人 山村栄次(仮名)

事件本人 山村美子(仮名) 他一名

主文

申立人及び事件本人等の氏を「松木」に変更することを許可する。

理由

按ずるに本件記録及びその申立の事情によると、申立人等は特種部落民として社会的に不当なる蔑視圧迫を受けることは勿論同姓同名多く郵便物等の誤配もあつて非常に不自由を感じていることが認められる。

依つてその申立を相当と認め主文の通り審判する。

(家事審判官 米山義員)

申立の事情

私達部落は同姓が非常に多く其の数かぞえて三十五軒程に及んでおります。他所より婚姻のため入籍するも氏変更のため同姓同名がだんだんと多くなつていくため郵便物の誤配、問合せにも多大なる御迷惑をかけているのであります。又当部落は従来より特種部落民として社会的に不当なる蔑視圧迫を受け来たものでありますが、その一例としてやがて始まる新学期におきましても幼い子供が人の前で本姓を読み上げられた場合、小さい子供でさえその感を覚え最愛なる子のためにもと考えているのであります。

従つて部落において本姓を名のる者は他所に移転、就職しても尚その出身地を想像せられ特種部落民としての感覚をもつて遇せられておる状況であります。

先に行なわれた水平運動、解放運動と社会に於て叫んでも今は下火となつて何等効果なく、基本的人権を主張する世の中に幸福な結婚生活を送つている人でさえ本姓のため離婚された実例もあるのです。

従つて従来の差別待遇は払拭せらるべき筈でありますが今尚従来の感情から脱せられず蔑視観念の為この不当たる精神的苦痛に悩まされております。この際本姓を改氏し新たなる姓で名のれば幾分でも不当なる感情から免れるものと信じますので何卒特別の御詮議に預り上記改氏を御許可相成りたくお願い申し上げます。

(注)右事件はいわゆる特種部落の集団改氏(他三二件)によるもので他の事件は本件と同様であるので省略した。

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